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Page:Kokubun taikan 01.pdf/260

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むこゝちせで、

 「あかなくにかりのとこよを立ち別れ花のみやこに道やまどはむ」。さるべき都のつとなどよしあるさまにてあり。あるじの君かくかたじけなき御送にとて黑駒奉り給ふ。「ゆゝしうおぼされぬべけれど風にあたりては嘶えぬべければ」など申し給ふ。世にありがたげなる御馬のさまなり。「形見に忍び給へ」とていみじき笛の名ありけるなどばかり、人咎めつべきことはかたみにえし給はず。日やうやうさしあがりて心あわたゞしければかへりみのみしつゝ出で給ふを、見送り給ふけしきいとなかなかなり。「いつまたたいめん給はらむとすらむ」、「さりともかくてやは」と申し給ふに、あるじ、

 「雲近く飛びかふたづも空に見よ我は春日のくもりなき身ぞ。かつはたのまれながら、かくなりぬる人は昔のかしこき人だにはかばかしう世に又まじらふ事難く侍りければ、何か都のさかひをまた見むとなむ思ひ侍らぬ」などの給ふ。宰相、

 「たつかなき雲井にひとりねをぞなくつばさならべし友を戀ひつゝ。かたじけなく馴れ聞え侍りていとしもと悔しう思ひ給へらるゝ折多く」など、しめやかにもあらで歸り給ひぬる名殘いとゞ悲しうながめ暮し給ふ。やよひのついたちに出で來たる巳の日「今日なむかくおぼすことある人はみそぎし給ふべき」となまさかしき人の聞ゆれば、海づらもゆかしくて出で給ふ。いとおろそかにぜんじやうばかりを引き廻らしてこの國に通ひける陰陽師召してはらへせさせ給ふ。船にことごとしきひとがた載せて流すを見給ふにもよそへられて、