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きたらむやうなるに竹あめる垣しわたして石のはし松の柱おろそかなるものからめづらかにをかし。やまがつめきてゆるし色の黃がちなるに靑鈍の狩衣指貫、うちやつれて殊更にゐなかびもてなし給へるしもいみじう見るにゑまれて淸らなり。取りつかひ給へる調度もかりそめにしておまし所もあらはに見入れらる。碁雙六のばん、調度、たぎの具など田舍わざにしなして、念珠の具行ひ勤め給ひけりと見えたり。物まゐれるなど、殊更所につけ興ありてしなしたり。海士どもあさりしてかいつ物もて參れるを召し出でゝ御覽ず。浦に年經るさまなど問はせ給ふにさまざま安げなき身のうれへを申す。そこはかとなくさへづるも、心の行くへは同じ事なるかなとあはれに見給ふ。御ぞどもかづけさせ給ふを生けるかひありと思へり。御馬ども近う立てゝ見やりなるくらか、何ぞなる、いねども取り出でゝかふなどめづらしう見給ふ。あすか井少し謠ひて、月比の御物語泣きみ笑ひみ若君の何とも世をおぼさで物し給ふ悲しさを、おとゞの明暮につけておぼし歎くなど語り給ふに堪へ難くおぼしたり。つきすべくもあらねばなかなか片端もえまねばず。よもすがらまどろまず文作り明し給ふ。さいひながらも物の聞えをつゝみて急ぎかへり給ふ。いとなかなかなり。御かはらけまゐりて「醉の悲みの淚そゝぐ春の盃のうち」ともろ聲にずし給ふ。御供の人ども皆淚をながす。おのがじゝはつかなる別惜むべかめり。朝ぼらけの空に雁つれてわたる。あるじの君、
「ふる里をいづれの春か行きて見むうらやましきはかへるかりがね」。宰相更にに立ち出で