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Page:Kokubun taikan 01.pdf/233

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げにうち荒れたる心地して、若君の御めのとゞもむかし侍ひし人の中に、まかで散らぬかぎり、かく渡り給へるを珍しがり聞えてまうのぼり集ひて見奉るにつけても、殊に物深からぬ若き人々さへ世の常なさ思ひ知られて淚にくれたり。若君はいと美しうてざれ走りおはしたり。「久しき程に忘れぬこそ哀なれ」とて、膝にすゑ給へる御氣色忍びがたげなり。おとゞこなたに渡り給ひてたいめし給へり。つれづれに籠らせ給へらむ程何と侍らぬ昔物語も參り來て聞えさせむと思ひ給ふれど、身の病おもきによりおほやけにも仕うまつらず、位をも返し奉りて侍るに、私ざまには腰のべてなど物の聞えひがひがしかるべきを、今は世の中憚るべき身にも侍らねどいちはやき世のいと恐しう侍るなり。かゝる御事を見給ふるにつけて命長きは心うく思う給へらるゝ世の末にも侍るかな。天の下をさかさまになしても思ひ給へよらざりし御有樣を見給ふれば、萬いとあぢきなくなむ」と聞え給ひていたうしほたれ給ふ。「とあることもかゝることもさきの世の報にこそ侍るなれば、いひもて行けば唯自らの怠になむ侍る。さしてかく官ざくを取られずあさはかなる事にかゝづらひてだにおほやけのかしこまりなる人のうつしざまにて世の中にありふるはとが重きわざにひとの國にもし侍るなるを、遠く放ち遣すべきさだめなども侍るなるはさま殊なる罪に當るべきにこそ侍るなれ。濁なき心に任せてつれなく過ぐし侍らむもいとはゞかり多く、これより大なる恥に臨まぬさきに世を遁れなむと思う給へ立ちぬる」など細やかに聞え給ふ。昔の御物語院の御事おぼしのたまはせし御心ばへなど聞え出で給ひて御直衣の袖もひき放ち給はぬに、君も