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え心强くももてなし紿はず。若君の何心なく紛れありきてこれかれに馴れ聞え給ふをいみじとおぼしたり。「過ぎ侍りにし人を世に思う給へ忘るゝ世なくのみ今に悲しび侍るを、この御事になむ、もし侍る世ならましかばいかやうに思ひ歎き侍らまし。よくぞ短くてかゝる夢を見ずなりにけると思う給へ慰め侍る。幼くものし給ふがかく齡過ぎぬる中にとゞまり給ひてなづさひ聞えぬ月日や隔たり給はむと思ひ給ふるをなむ萬の事よりも悲しう侍る。いにしへの人も誠にをかしあるにてしもかゝる事に當らざりけり。猶さるべきにて人のみかどにもかゝる類多く侍りけり。されど言ひ出づるふしありてこそさる事も侍りけれ。とざまかうざまに思ひ給へよらむ方なくなむ」など多くの御物語聞え給ふ。三位中將も參り合ひ給ひておほみきなどまゐり給ふに夜更けぬればとまり給ひて人々御前に待はせ給ひて物語などせさせ給ふ。人よりはげにこよなう忍びおぼす。中納言の君いへばえに悲しう思へるさまを人知れず哀れとおぼす。人皆靜まりぬるに取りわきて語らひ給ふ。これによりとまり給へるなるべし。明けぬれば夜深う出で給ふに有明の月いとをかしう花の木どもやうやう盛過ぎて僅なる木蔭のいとおもしろき庭に薄くきり渡りたるそこはかとなく霞みあひて秋の夜のあはれに多くたちまされり。隅のまの高欄におしかゝりてとばかり眺め給ふ。中納言の君見奉り送らむとにや妻戶押しあけて居たり。「又たいめんあらむとこそ思へばいと難けれ。かゝりけむ世を知らで心安くもありぬべかりし月比をさしも急がで隔てけるよ」などへの給へば、物も聞えずなく。若君の御乳母、宰相の君して宮の御まへより御せうそこ聞え給