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また召したり。殿上人も大學のもいと多う集ひてひだりみぎにこまどりにかたわかたせ給へり。掛物どもなどいと二なくて挑みあへり。ふたぎもて行くまゝに難き韻の文字どもいと多くておぼえある博士どもなどの惑ふ所々を、時々うちのたまふさまいとこよなき御才の程なり。いかでかうしも足らひ給ひけむ、猶さるべきにて萬の事人に勝れ給へるなりけり」とめで聞ゆ。遂に右まけにけり。二日ばかりありて中將まけわざし給へり。ことごとしうはあらでなまめきたるひわりごとも掛物などさまざまにて、今日も例の人々多く召して文など作らせ給ふ。はしのもとのさうび氣色ばかり咲きて春秋の花盛よりもしめやかにをかしき程なるにうち解け遊び給ふ。中將の御子の今年始めて殿上する八つ九つばかりにて聲いとおもしろくさうの笛吹きなどするをうつくしみもて遊び給ふ。四の君腹の二郞なりけり。世の人の思へるよせ重くておぼえ殊にかしづけり。心ばへもかどかどしうかたちもをかしくて、御遊の少しみだれゆく程に高砂を出だしてうたふ、いとうつくし。大將の君御ぞぬぎてかづけ給ふ。例よりはうちみだれ給へる御顏のにほひ似るものなく見ゆ。うすもののなほしひとへを着給へるに透き給へる肌つきましていみじう見ゆるを、年老いたる博士どもなど遠く見奉りて淚落しつゝ居たり。「あはましものをさゆりばの」とうたふとぢめに中將御かはらけまゐり給ふ。
「それもかとけさひらけたるはつ花に劣らぬ君がにほひをぞ見る」。ほゝゑみて取り給ふ。
「時ならで今朝さく花は夏の雨にしをれにけらし匂ふほどなく。おとろへにたる物を」と