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Page:Kokubun taikan 01.pdf/221

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にことごとしきさまなれば洩らしてけるなめり。さるはかうやうの折こそをかしき歌など出で來るやうもあれ、さうざうしや。まゐり給ふも今はつゝましさ薄らぎて御自ら聞え給ふ折もありけり。思ひしめてしことは更に御心に離れねどましてあるまじき事なりかし。年もかはりぬればうちわたり花やかに內宴蹈歌など聞き給ふにも物のみあはれにて、おほん行ひしめやかにし給ひつゝ後の世の事をのみおぼすにたのもしくむつかしかりし事離れておぼさる。常の御ねんず堂をばさるものにてことに建てられたる御堂の西の南にあたりて少し離れたるに渡らせ給ひて取りわきたる行せさせ給ふ。大將まゐり給へり。改まるしるしもなく宮の內のどかに人めまれにて宮づかさどもの親しきばかりうちうなだれて、見なしにやあらむくしいたげに思へり。あを馬ばかりぞ猶ひきかへぬものにて女房などの見ける。所せう參りつどひ給ひし上達部なども道をよきつゝひき過ぎてむかひのおほい殿に集ひ給ふを、かゝるべきことなればあはれにおぼさるゝに、千人にもかへつべき御さまにて深う尋ね參り給へるを見るにあいなく淚ぐまる。まらうどもいとものあはれなる氣色に、うち見まはし給ひてとみに物ものたまはず。さまかはれる御住まひにみすの端み几帳も靑にびにてひまひまよりほの見えたる薄にびくちなしの袖口など、なかなかなまめかしう奧ゆかしう思ひやられ給ふ。解け渡る池の薄氷岸の柳の氣色ばかりは、時を忘れぬなどさまざまながめられ給ひて「むべも心あると」忍びやかに打ちずじ給へるまたなうなまめかし。

 「ながめかる海士のすみかと見るからにまづしほたるゝ松が浦島」ときこえ給へば、奧深