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婦して聞え給ふ。みすの內のけはひそこら集ひ給ふ人のきぬの音なひしめやかにふるまひなしてうちみじろきつゝ悲しげさの慰め難げにもり聞ゆる氣色、ことわりにいみじと聞き給ふ。風烈しう吹きふゞきて、みすの中のにほひいと物深きくろほうにしみてみやう香の煙もほのかなり。大將の御にほひさへかをりあひめでたく極樂思ひやらるゝよのさまなり。春宮の御使も參れり。のたまひしさま思ひ出で聞えさせ給ふにぞ御心强さも堪へ難うて御返りも聞えさせやらせ給はねば、大將ぞ言加へ聞えさせ給ひける。誰も誰もあるかぎり心をさまらぬ程なればおぼすことどもゝうち出で給はず。
「月のすむ雲井をかけてしたふともこの夜のやみに名をやまどはむ。と思ひ給へらるゝこそかひなくおぼし立たせ給へる美しさはかぎりなう」とばかり聞え給ひて、人々近う侍へばさまざま亂るゝ心のうちをだにえ聞えあらはし給はずいぶせし。
「大かたのうきにつけては厭へどもいつかこの世をそむきはつべき。かつ濁りつゝ」など、かたへは御使の心しらひなるべし。あはれのみつきせねば胸苦しうてまかで給ひぬ。殿にても我が御方に一人うちふし給ひて、御目もあはず、世の中厭はしうおぼさるゝにも春宮の御事のみぞ心苦しき。母宮をだにおほやけざまにとおぼしおきてしを、世のうさに堪へずかくなり給ひにたればもとの御位にてもえおはせじ。我さへ見奉り捨てゝはなどおぼし明すことかぎりなし。今はかゝるかたざまの御調度どもをこそはとおぼせば、年の內にと急がせ給ふ。命婦の君も御供になりにければ、それも心深うとぶらひ給ふ。委しう言ひつゞけむ