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せど、詞ずくなにてとかく紛はしつゝとり隱し給ひつ。「そこにこそ多く集へ給ふらめ。少し見ばや。さてなむこの廚子も心よく開くべき」とのたまへば、「御覽じ所あらむこそ難く侍らめ」など聞え給ふ序に「女のこれはしもと難つくまじきは難くもあるかなと、やうやうなむ見給へ知る。唯うはべばかりのなさけに手走り書き、折節のいらへ心得てうちしなどばかりは隨分によろしきも多かりと見給ふれど、そも誠にその方を取り出でむ選に必漏るまじきはいと難しや。我が心得たる事ばかりをおのかじゝ心をやりて人をばおとしめなど、傍痛き事多かり。親など立ち添ひてもてあがめておひさき籠れる窓の內なる程は唯かたかどを聞き傅へて心を動す事もあめり。かたちをかしくうちおほどき若やかにて紛るゝ事なき程、はかなきすさびをも人まねに心を入るゝ事もあるにおのづから一つゆゑづけてし出づる事もあり。見る人後れたる方をば言ひ隱しさてありぬべき方をば繕ひて、まねび出すにそれしかあらじとそらにいかゞは推し量り思ひくたさむ。誠かと見もて行くに見劣りせぬやうはなくなむあるべき」とうめきたる氣色も耻しげなれば、いとなべてはあらねど我も覺し合することやあらむ、うちほゝゑみて、「そのかたかどもなき人はあらむや」とのたまへば、「いとさばかりならむあたりには誰かはすかされ寄り侍らむ。取る方なく口惜しききはと優なりと覺ゆばかり優れたるとは數等しくこそ侍らめ。人のしな高く生れぬれば、人にもてかしづかれて隱るゝこと多くじねんにそのけはひこよなかるべし。中の品になむ人の心々己がじゝの立てたる趣も見えて分かるべき事かたがた多かるべき。下のきざみといふきはになれば、