コンテンツにスキップ

Page:Kokubun taikan 01.pdf/191

提供:Wikisource
このページは校正済みです

つれ姿華やかなる御よそひよりもなまめかしさ增り給へり。「春宮にも久しう參らぬおぼつかなさ」など聞え給ひて夜更けてぞまかで給ふ。

二條院にはかたがた拂ひ磨きてをとこをんな待ち聞えたり。上臈ども皆參うのぼりてわれもわれもとさうぞきけさうじたるを見るにつけてもかの居並みくんじたりつる氣色どもぞ哀に思ひ出でられたまふ。御さう束奉りかへて、西の對に渡り給へり。ころもがへの御しつらひ曇なくあざやかに見えてよきわかうどわらはべ、なり姿めやすくとゝのへて少納言がもてなし心もとなき所なく心にくしと見給ふ。姬君いと美くしうひきつくろひておはす。「久しかりつるほどにいとこよなうこそおとなび給ひにけれ」とてちいさき御几帳ひきあげて見奉り給へばうちそばみて恥ぢらひ給へる御さま飽かぬ所なし。ほかげの御かたはら目かしらつきなど、唯かの心づくし聞ゆる人の御さま、違ふ所なくも成り行くかなと見給ふにいとうれし。近く寄り給ひて、おぼつかなかりつるほどの事どもなど聞え給ひて「日頃の物語、のどかに聞えまほしけれどいまいましう覺え侍れば暫しはことかたにやすらひて參りこむ。今はとだえなく見奉るべければ厭はしうさへや思されむ」と語らひ聞え給ふを少納言は嬉しと聞くものから猶危く思ひ聞ゆ。やんごとなき御忍び所多うかゝづらひ給へれは又わづらはしきや立ち代り給はむと思ふぞにくき心なる。我が御方に渡り給ひて中將の君といふに御あしなど參りすさびて大殿ごもりぬ。あしたには若君の御許に御文奉りたまふ。哀なる御かへりを見給ふにもつきせぬ事どものみなむ。いとつれづれにながめがちなれど何となき御ありきも物うく覺しなりてお