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Page:Kokubun taikan 01.pdf/190

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枯れてまじれり。宮に御覺ぜさせ給ひて「いふかひなき事をばさるものにてかゝる悲しきたぐひ世になくやはと思ひなしつゝ契ながゝらでかく心を惑はすべくてこそはありけめとかへりてつらくさきの世を思ひやりつゝなむさまし侍るを、唯日頃に添へて戀しさの堪へがたきと、この大將の君の今はとよそになり給はむなむ飽かずいみじく思ひ給へらるゝ。ひとひ二日も見え給はずかれがれにおはせしをだに飽かず、胸痛く思ひ侍りしを、朝夕のひかり失ひてはいかでかながらふべからむ」と、御聲もえ忍びあへ給はず泣き給ふに、御前なるおとなおとなしき人などいと悲しくてさとうちなきたる、そゞろ寒き夕のけしきなり。若き人々は所々に群れ居つゝ己がどち哀なる事ども打ち語らひて「殿のおぼしのたまはするやうに、若君を見奉りてこそは慰むべかめれと思ふもいとはかなき程の御かたみにこそ」とて、「各あからさまにまかでゝ參らむ」といふもあればかたみにわかれをしむほど己がじゝ哀なる事ども多かり。院へ參り給へれば、「いといたくおもやせにけり。さうじにて日を經るけにや」と心苦しげに思しめしてお前にて物などまゐらせ給ひてとやかくやとおぼしあつかひ聞えさせ給へるさま哀にかたじけなし。中宮の御方に參り給へれば人々珍しがり見奉る。命婦の君して「思ひつきせぬ事どもを程經るにつけてもいかに」と御消そこ聞え給へり。「常なき世は大かたにも思ふ給へしりにしを、目に近く見侍りつるに厭はしき事多く思う給へ亂れしもたびたびの御せうそこに慰め侍りてなむ。今日までも」とてさらぬ折だにある御氣色取り添へていと心苦しげなり。無紋のうへの御ぞに、にび色の御したがさね纓卷き給へるや