コンテンツにスキップ

Page:Kokubun taikan 01.pdf/120

提供:Wikisource
このページは校正済みです

さゝか疎く恥しとも思ひたらず、さる方にはいみじうらうたきわざなりけり。さかしら心あり何くれとむつかしきすぢになりぬれば、我が心地も少したがふふしも出でくやと心おかれ、人もうらみがちに思の外の事もおのづから出で來るを、いとをかしきもてあそびなり。むすめなどはた、かばかりになりぬれば心安くうちふるまひ隔なきさまに、おきふしなどはえしもすさまじきを、これはいとさまかはりたるかしづきぐさなりとおぼいためり。


末摘花

思へども猶飽かざりし夕顏の露に後れし程の心ちを年月經れどおぼし忘れず、こゝもかしこもうちとけぬかぎりのけしきばみ心深き方の御いどましさに、けぢかくなつかしかりしあはれに似るものなう戀しく覺え給ふ。いかでことごとしきおぼえはなくいとらうたげならむ人のつゝましき事なからむ見つけてしがなとこりずまにおぼしわたれば、すこしゆゑづきて聞ゆるわたりは御耳とまり給はぬ隈なきに、さてもやと覺しよるばかりのけはひあるあたりにこそはひとくだりをもほのめかし給ふめるに、靡き聞えずもてはなれたるはをさをさあるまじきぞいと目馴れたるや。つれなう心づよきは、たとしへなう情後るゝまめやかさなど、あまり物のほど知らぬやうに、さてしも過ぐしはてず名殘なくくづほれてなほなほしき方に定りなどするもあれば、のたまひさしつるも多かりけり。かの空蟬を物の折々に