御座らふナ 三「イヱ御使者の口上を 次武「成る程然う〳〵遂失念致した 三「益々驚ろき入りました、小身者では御座りますが、中村留太夫と申す者、アレに控へ居りますが、如何致しませうや 次武「千萬忝けない事で、何分よろしく御願ひ奉つる事で 三「委細承知致した、御次に控へし中村留太夫、早々是へ、中村留太夫留太夫と呼びましたが 留「留公から無官で何うだイ俺の服裝は、黑紋付に袴穿、我ながら男が十段もあがりやアがつた、一番此の服裝で町內を步行て見てイものだ、何んて云やアがるだらふ、アラ留さん一寸御覽なさいヨ、眞實に立派な事だ、アー云ふ人を一ぺん亭主にして見たいは、と來るに相違ない、有難ひ 三「御次に控へし留太夫、コレ 留「オイ 三「コレ留太夫殿、是へ〳〵」と云はれて留公 留「眞平御免なせエ、 三「コレ失禮があつてはならん、叮嚀に致せ 留「宜しう御座り奉つる 三「只今申上げました中村留太夫に御座りまする 次武「是は〳〵始めて御面會を仕る、手前事は松平正目の正の家來じぶ田次武右衛門と申し、至つて不骨者、御見知り置れて御別