遣ると、留兄イ何んて云ひますぜ 三「シテ名字は何んと云ふな 留「何んだイ、其の名字なんて 三「困るなア、中村とか又田中とか何んとか名字があるだらう 留「夫れがネ、名字は確か大工だ 三「馬鹿大工と云ふ名字があるか、夫れでは宜しい、中村氏の御名前を拜借して中村留太夫と云ふ名になれ 留「夫れでは俺が留太夫でお前さんが三太夫、恰で伊勢のおしが二人出來上つた 三「拙者が只今彼方へ參り、其方次の間に控へて居れ、必ず失禮があつてはならんぞ 留「ヘイ宜しふ御座います」と是から三太夫さん、使者の間へ參りますると、使者は只茫然して居ります 三「御免、如何で御座るな、少しは思ひ出しになりましたかナ 次武「ハイ、是は〳〵拙者事は松平正目の正の家來じぶ田次武右衛門と申す者、以後は御見知り置れまして御別懇に願はしう存じます、テハアー 三「是は驚ろきました、拙者は最前より度々御目通りを致したる田中三太夫でお見忘れは恐れ入ります 次武「ヤア是は〳〵何んとも失禮、御見忘れ申した 三「如何で御座るナ、思ひ出しになりましたかナ 次武「何んで