懇に願ひまするで、はい 三「是れ留太夫、御挨拶をせんか 留「何んだイ、ゑへさつなんて、ヘイ宜ふ御座り奉つるヨ、御私事は御中村御留太夫樣と申し奉つる者で、御私樣の御指の先へ御力が御座り奉つるから、御前樣お尻樣を御つめり奉つる樣な譯で御座り奉つる、恐惶謹言 三「コラ〳〵何を申す」と留公の袖を引張ると 留「オイ然う袖を引張つては叶ねヱ、何んぼ借物でき切ると叶ねヱ 三「コラ〳〵と目で知らせますると、留公キヨロ〳〵しながら 留「御田中三太夫さん、是に御出奉つては御私樣が、御口が御聞き奉つらねエから早くあちらへ御引込み奉つれ 三「然らば失禮の無い樣に 留「宜しふ御座り奉つる」と三太夫さんは次の間へ引退りました 留「オイ御前さん、尻を早く御まくり奉つれ、オイ御まくり奉つれヨ 次武「何んと仰せられるか、何分判り兼まするテ 留「何んでも宜しふ御座り奉つるから、尻を御まくり奉つれヨ、オイ誰か其處を御覗き奉つて御笑ひ奉つるナ、御覗き奉つて困り奉つるヨ 次武「然らば失禮」と尻をまくると 留「何んだイ毛むくじやらな御尻樣で御座り