た。何でも、手塚と云う男は、非常に探偵的手腕があって、好んで義侠的な弁護を引受けて、幾多の奇怪な事件を、快刀乱麻を断つように解決するけれども、彼には隠れた目的があって、きっと、多額な報酬を、どこからか得るのだそうである。その報酬と云うのは、大抵の場合、法網を潜って、悪辣な手段で金櫧けをしている連中から、せしめるのだそうで、社会的に実害はないかも知れないが、非合法的である事は免か〔ママ〕れないので、無論私などは、彼にせしめられる何ものも持っていないから、一向差支えはないが、彼が無一文の八木万助などを、義侠と云う美名の
手塚は非常に機嫌がよかった。
「この間の実験の結果が、実に成功でな、事件の解決はもう一息と云う所じゃで。ところで、今日は、小石川の脇田博士の研究室の調査に行きたいのじゃが、一緒に来て下さらんか」
脇田博士の研究室と云うのは、去年の火災の時に、焼け残ったのと、その後新しく建てて博士が殺される日まで、
私はどうしようかと思って迷っていると、青年理学士が、
「是非お出下さい」
と、懇願するように云ったので、私は直ぐ承諾してしまった。
私はどうもこの青年が好きで耐らないのだ。
小石川へ行く自動車の中で、手塚弁護士は、時々青年理学士に助言を求めながら、大体次の次のような事を話した。
彼の語る所によると、万助が怪紳士に連れられて、彼の家に行った時に、
「では、何故、その紳士がそんな事をして見せたかと云うと」手塚は鼻を
「つまり、テレビジョンでもなんでもない、普通のトーキー映画を、テレビジョンだと思わせるためなのじゃ。と云うのは、もしいきなりそれを見せたら、万助は信じないかも知れない。それで、いろいろと、科学的な怪奇を見せて、徐々に万助を信じさせた訳なのじゃ。一つには、万助が後にこの事を人に語った時に、それが彼の
「テレビジョンだと云って、トーキー映画を見せた訳は」
私は訊いた。
「万助に嫉妬心を起させて、女房が見馴れない怪しい男と、一緒にでもいようなら、直ぐ、撃ち殺してしまわせるためじゃて。万助に見せたトーキー映画は、多分、特別に製作したものではなく、既製のものを利用したのじゃ。それだから、小穴の中から覗かせたり、わざと不鮮明にしたりしたのじゃ。映画は万助の嫉妬心を挑発するのに役立てばいいのじゃ。無論、映画の中の人物が、万助に殺させよ