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Page:KōgaSaburō-Yōkō Murder Case-Kokusho-1994.djvu/14

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た。何でも、手と云う男は、非常に探偵的手腕があって、好んで義侠的な弁護を引受けて、幾多の奇怪な事件を、快刀乱麻を断つように解決するけれども、彼には隠れた目的があって、きっと、多額な報酬を、どこからか得るのだそうである。その報酬と云うのは、大抵の場合、法網を潜って、悪辣な手段で金櫧けをしている連中から、せしめるのだそうで、社会的に実害はないかも知れないが、非合法的である事は免かママれないので、無論私などは、彼にせしめられる何ものも持っていないから、一向差支えはないが、彼が無一文の八木万助などを、義侠と云う美名のもとに、弁護の労をろうとしている底意のほどが恐ろしい。彼はきっと、何か利益になる事をねらっているに違いないのだ。私は彼と一緒に行動している青年理学士が気の毒に思えてならなかった。彼は恐らく、手の隠された目的などを知らないで、一緒に仕事をしているのだろうが、ひどい迷惑をこうむらなければいいと思うのだ。

 手は非常に機嫌がよかった。

「この間の実験の結果が、実に成功でな、事件の解決はもう一息と云う所じゃで。ところで、今日は、小石川の脇田博士の研究室の調査に行きたいのじゃが、一緒に来て下さらんか」

 脇田博士の研究室と云うのは、去年の火災の時に、焼け残ったのと、その後新しく建てて博士が殺される日まで、立籠たてこもっていた新研究室と、二つあるのだが、手はそこから、何か手係りを得ようとするらしいのだ。

 私はどうしようかと思って迷っていると、青年理学士が、

「是非お出下さい」

 と、懇願するように云ったので、私は直ぐ承諾してしまった。

 私はどうもこの青年が好きで耐らないのだ。

 小石川へ行く自動車の中で、手弁護士は、時々青年理学士に助言を求めながら、大体次の次のような事を話した。

 彼の語る所によると、万助が怪紳士に連れられて、彼の家に行った時に、ドアが自然に開いたとか、「開け! 悪魔」と怒鳴って、戸棚の戸を開けたとか、鏡に覗いた人間の顔が写らないで、悪魔の姿が写ったとか云うのは、大して不思議な事ではないので、扉が自然に開くと云う事は、既にアメリカでは実用時代に這入っているそうで、扉の中に金属板が這入っていて、それが近づいて来る人間と対立して、電気的のコンデンサーを形造り、そのために生ずる振動が電流継続器に働いて、電流の回路を閉じ、それによって、扉が開くので、他の場合も、やはり同じように説明が出来ると云う事だった。

「では、何故、その紳士がそんな事をして見せたかと云うと」手は鼻をうごめかしながら云った。

「つまり、テレビジョンでもなんでもない、普通のトーキー映画を、テレビジョンだと思わせるためなのじゃ。と云うのは、もしいきなりそれを見せたら、万助は信じないかも知れない。それで、いろいろと、科学的な怪奇を見せて、徐々に万助を信じさせた訳なのじゃ。一つには、万助が後にこの事を人に語った時に、それが彼の出鳕目でたらめであると、思わせるためでもあったろうて」

「テレビジョンだと云って、トーキー映画を見せた訳は」

 私は訊いた。

「万助に嫉妬心を起させて、女房が見馴れない怪しい男と、一緒にでもいようなら、直ぐ、撃ち殺してしまわせるためじゃて。万助に見せたトーキー映画は、多分、特別に製作したものではなく、既製のものを利用したのじゃ。それだから、小穴の中から覗かせたり、わざと不鮮明にしたりしたのじゃ。映画は万助の嫉妬心を挑発するのに役立てばいいのじゃ。無論、映画の中の人物が、万助に殺させよ