の中は全くの暗黒だった。全くの暗黒と云う言葉は
私達は一種異様な感に打たれながら、深淵のような暗さのうちに、押し黙っていた。
すると、突然、万助が叫び出した。
「アッ、あれだ。あれが見える」
電燈がパッとつけられた。それと同時に、予審判事は、穏やかに訊いた。
「あれって、何か見えたのかね」
万助は蒼ざめた顔で答えた。
「あれと云うのは、去年、博士の家に忍び込んだ時に、真暗な廊下の所で、煙のようにモヤモヤとしていた、薄い光のような、光でないようなものです」
「ふむ」
予審判事は、当惑したような眼を、チラリと青年理学士の方に投げかけた。
青年理学士は、
「八木君はあんな事を云いますが、皆さんには何か見えたでしょうか。もう一度、お試しを願います」
部屋は再び、暗黒になった。
私は一生懸命に眼を見張って、万助に見えると云う、モヤモヤを見ようと思ったが、どう
暗闇から青年理学士の声がした。
「八木君、やはり見えるかね」
「はあ、見えます」
「これでは」
「見えません。消えました」
「これでは」
「又、見え初〔ママ〕めました」
電燈が再びつけられた。
青年理学士は一座を見廻しながら、
「どなたか、八木君の云うようなものを、御覧になった方はありませんか」
「何にも見えん」
「私も」
「私も」
予審判事と、手塚弁護士と私とは、殆ど同時に答えて、互に顔を見合した。
実験はこれですんだ。しかし、私には何の事やら、少しも分らなかった。
八
奇妙な実験がすんでから、二三日して、手塚弁護士が、例の青年理学士と一緒に、又もや、私の家を訪ねて来た。
私は、この二三日のうちに、手塚について、聞き込んだ事があるので、やや、彼を警戒し始めてい