だったけれども、万助は博士は在宅だったと信じているから、もしかすると、彼はこんな事を、誤信したかも知れないのだ――不安のあまり、博士を殺したのではないか。もっとも、作り事にしては、万助の創意とは考えられない点もあり、且つ脇田博士が万助の家を訪ねたと云う事が、解き難い謎ではあるが、検察官の立場としては、万助を怪しいと睨んだのは、
万助はどんな調べ方をされたのか分らないが、結局、彼は博士夫人を射殺した事を認めた。どうせ一人は殺しているのだから、二人になっても同じ事だと考えたためか、とにかく、彼は調書に
星合判事は首を捻った。彼はやや万助の云う所を認めたのだった。しかし、何にしても、彼の申立てる事実が、精神状態を怪しまなければならないような奇怪さを持っていたので、この話の冒頭に述ベた通り、先ず、彼の精神鑑定を、私に命じたのだった。
七
精神鑑定の話は煩わしいし、専門的に
私の鑑定は万助に有利だったので、手塚弁護士は非常に満足したが、その後一週間ほどすると、彼は再び私を訪ねて来て、万助について、或る実験をしたいのだが、是非判事の許可を得るように尽力してくれと頼むのだった。
重罪犯人を、弁護士側の希望で、無闇に実験に供すると云うのはどうかと思ったが、手塚の頼み方が余りに熱心なので、私は星合判事に取ついでみた。すると、判事は暫く考えていたが、彼は何とかして奇々怪々な謎を、一時も早く解決したいと急いでいた時でもあり、非公式に万助を実験に供する事を許可してくれたのだった。
実験場には予審廷の一室が
実験の当日になると、手塚はキビキビした好男子の青年を一人連れて、私の家を訪ねて来た。その青年は、最近に大学を出た理学士で、今日の実験と云うのも、実は彼の発案にかかるものだった。
私はこの青年理学士に、直ぐ好感が持てた。別に
三人は直ぐに自動車に乗って、実験場の法廷に向ったが、室に這入ると、青年理学士は忽ち器用な手つきで、持って来た器械の装置を始め、暗室の工合などを試して、忽ち実験の準備を整え終った。
やがて、万助が護送されて来て、星合判事が附添って、実験室に這入って来た。万助は、手塚弁護士の希望によって、実験については、何等予備知識が与えられていなかったのだった。
やがて、窓を蔽う厚い黒布は、二重に張られて、準備が整うのと、同時に、電燈は消された。部屋