小柄な男は暫く勝負を見ていたが、やがてスゴスゴと引上げて行った。
この煩悶
そこへ友吉が二度目の勝負を切上げて、フラフラと這入って来た。
『ハロー、ヘル・タカハシ!』彼は叫んだ。
友吉はカウンターの所に来て、オットの隣に割込んだ。
『ヘル高橋、どうです、スッカラカンになりましたか。』
オットは
『未だ千弗ばかし残ってらア。』友吉は嘲けるようにいった。
『時々勝つもンだからね、案外急にゃ負けられないんだよ。』
『シニョル・ステファニ。』オットは隣にいた
『そいつは素敵だ。』ステファニは大分酔っていた。『だが、賭博てえものは逆に出るものだぜ。そういう気持でやりア、却って勝つもンだぜ。』
『所がお前、相手が悪いや。稲妻ジムだからね。』
『稲妻ジムには勝てねえや。そいつア止めた方がいい。』
『所が負けたいてえんだ。』
『変ってるなア。おイ君。』とステファニは友吉に、『君の国の人は皆そうかい。慾がねえてえ話だなア。』
『そうでもねえさ。』と、友吉は片言の英語で、『僕ア別だよ。』
『何だって、又そんなに銭が邪魔なんだい。』
『俺ア。』とオットが引取って、『大方失恋の結果だと思うんだ。』
『僕ア、女を探しに来たんだ。』友吉は突然叫んだ。
『え、女を探しに。』ステファニは怪しい
『止せやい。毛唐の女なんかにゃ用はねえんだ。日本の女を探してるんだよ。』
『ハハア。』オットはうなずいて、『お前、逃げた女を探してるんだな。』
『お前可哀想にふられたのか。』ステファニがいった。
『そうだよ、僕ア女に逃げられたんだ。だが、嫌われたのじゃない。僕ア信じてる。嫌われたんじゃない。』
『へえ、お前の国じゃ、嫌わないで、女が男から逃げるのかい。』
『女は売られたんだ。