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 日本人は相変らずモジモジしていたが、やがてオズオズとカードを二つに切った。

『そっちの方の上のカードを取るんだ。』

 ジムは二つに切られたうち、下の方だった半分のカードを指した。

 いわれた通り取って開けて見ると、スペードの十だった。

『まア悪かねえや。』ジムはいった。『十だから、九から二まで、下が八つあるし、上はエースまで四つしきゃねえ。八対四だ。今度はお前さん、混ぜ合ママして呉ンな。』

 ジムはカードを小柄な男に渡した。

 小柄な男は少し興味が出て来たと見えて、カードを受取って、不器用な手つきで「混ぜ合せシヤツフル」した。

『よく混ぜ合せて呉ンな。混ぜ合いが済んだら、ここへ置いて呉ンな。』と、ジムは卓子テーブルを指して、『そこで俺が二つに切って、下の半分の上の一枚を取るんだが、そこでどうだね、お客さん、いくら張るね。』

『私、賭けない。』小柄な男は手をふった。

『そんなのないぜ。お前さんはもう引いたんだからな。しかも十をさ。下位したのカードが八枚、上位うえのカードが四枚、ねえ、お客さん、このカードはお客さんが混ぜ合したんだから、種も仕掛けもねえさ。俺だって何を引き当てるか分りゃしねえ。運賦天賦だよ。全くの話、十を引かれてるんだから、俺の方はとても辛いんだぜ。いくら賭けるね、お客さん。』

 小柄な男は巧みに持ちかけられて、少し意が動いたと見えて、

『十ドル位なら――』

『十弗じゃあね、お客さん、俺ア、百弗以下の勝負はしないんだ。ねえ、お客さん、お前さんはもう十を引いてるんだよ。強いじゃないか。俺ア絵札かエースを引くよりないんだ。』

 小柄な男は暫く考えていたが、やがてポケットを探って、百弗紙幣を出して、ためつすがめつした末、やっと卓子テーブルの上に置いた。

『百弗行きますかい。』

 稲妻ジムはニヤリと笑って、同じく百弗紙幣を出した。

『さア、千番に一番のかね合だ。鬼と出るか、蛇と出るか。』

 と、大袈裟な事をいいながら、ジムは眼の前に置かれたカードを、力を籠めて二つに切った。

『さア、もう泣いても笑ってもこの札だ。』

 切った下の方の一番上の札を取ると、ジムはパッと表向けた。

 クラブのジャックだった。

『おっと、済まねえ、済まねえ。ああ、危なかった。』

 と、ジムは卓子テーブルの上の紙幣さつを手早く摑んで、片づけて終った。

 小柄な日本人は丸で狐につままれたような顔をして、暫くポカンとしていた。

 所へ、友吉が帰って来た。

 友吉は小柄な日本人には眼も呉れず、席につくと、すぐジムに勝負を挑みかかった。

 旗色は相変らず友吉に悪かった。

 彼は見る見る千弗、二千弗と失って行った。