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ないで行こう」

 私達三人は元来た道へ引返した。みな子は暫く立って見送っていたが、すぐに足を早めて家の方に急いで行った。

「この土地を処分するといっても、中々大へんだね」歩きながら私はいった。

「買手はあるというんだけれどもね」渡辺が答えた。

 林を抜けて、地境の所へ来ると、境の石杭は訳なく見つかった。

「なアママーんだ」金子がいった。「こんなにはッママきりしているじゃないか」

「そこが女なんだね」渡辺が弁解いいわけするようにいった。「はっきりした上にもはっきりしないと、気になるんだね」

 私達は暫くその辺を歩き廻って、境の石杭を四五本発見した。

「心配する事はない。これなら大丈夫だ。何しろ寒くてやりきれない。行こうじゃないか」

 金子に促されて、私と渡辺は家の方に足を向けた。私達は始ママめての道なので、正直に最初来た通りの道を戻って来たが、後で考えると、それは大分廻り路だった。真直ぐに突切って行くと、余程近かったらしい。

 みな子は台所でせっせと支度をしていた。

 客間らしいあたりの煙突から盛んに煙が上っていた。

「しめたぞ」金子は大きな声でいった。「暖かい火に当れるぞ」

 みな子は台所から私達の姿を認めると、すぐ濡れた手を拭き拭き飛出して来た。

「もう主人もそろそろ起きるだろうと存じます。どうぞ、こちらへ」

 と、先に立って、私達を案内しながら、客間のドアを開けたが、忽ち、アッと叫んで棒立ちになってしまった。

 この時の部屋の中の恐ろしい有様は、今だに忘れる事は出来ない。暖炉に近い窓際に長椅子があって、その上に髪の毛の薄い瘦せた五十恰好の男がつっ伏していたが、なんと、その背中に白い柄の短刀が、グサリと突立っていて、そこから泉のように流れ出した血が、床一面に流れて、所々に不気味な血溜りを作っているのだ!

「し、しっかりして」

 渡辺はよろよろと倒れかかったみな子を、抱きかかえながら、懸命に叫んでいた。みな子の顔はまるで紙のように血の気がなく、恐怖に充ちた眼はかっと見開いたままだった。

物奪ものとりだな」

 金子は口の中でこう呟いた。

 専門家ならぬ素人の私にも物奪りの所為という事は分った。部屋の中がひどく引搔き廻してあった。きっと紛失した品があるに相違ない。

「医者と、それから警察と」

 渡辺はみな子を抱えながら叫んだ。

 私はすぐ邸の外へ飛出したが、幸いな事には、くわかついで自転車に乗った土地の青年が通りかかった。私は大急ぎで呼留めた。

「ひ、人殺しだッ。警察と医者を頼むッ」

 青年は仰天しながら私のいう事を聞いていたが、すぐ、