Page:KōgaSaburō-A Doll-Tōhō-1956.djvu/7

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「ふうん」小男は気乗りがしないように、

「どんな事を云つていたね」

「確か『人形――眼の動く人形』と云つていました」

「えツ!」今迄の平然たる態度に引替え、小男は簑島の言葉に仰天するように驚いたが、すぐ元の冷静な態度に戾つた。

「それは君本当かい」

「本当ですとも」蓑島はきつぱり答えた。

 と、小男は蓑島の答えを半ば聞流して、死体の方に飛んで行つた。

 あッ、と思ううちに彼はもう死体を抱き起していた。それから彼は上衣や胴衣のポケットを探つた。それから、死体の顔をじつと見つめたり、傷口を調べたり、忙しく、然し微細な点に渡つて、眼と手を働らママかした。

 やがて、一通り観察がすむと、死体をそつと先の位置に寝かして、彼は先刻一瞥しただけだつた短銃を注意深く取上げた。そしてそれをポケットにそつと滑り込ました。それから尚漸くジロと鋭く死体のは周囲を睨み廻したが、不意に蓑島の方に向き直つた。

「君、行こう」

「えゝツ」余り唐突な言葉に蓑島は面喰いママながら、

「どこへ行くんですか」

「黙つてついて来給え」小男は命令するように云つた。

「然し――」簑島はしよんぼり家で待つているであろう所の彼の愛妻を思い出した。

「細君が待つてるとでも云うのかい」小男は簑島の心の底を見拔いたように二ヤリとしながら、

「まあついて来給え。満後悔するような事はなかろう、一晩位細君を心配さすのも好いじやないか」

 この魔法使いの妖婆を思わせるような男の薄気味の悪い言葉のうちには、何となく否めない親しみと、振り切る事の出来ない魅力が籠つていた。蓑島の弱気と人並の好奇心は、渋々彼に従うべく余儀なくしたのだつた。

「どこへ行くのですか」彼は再びこう訊いた。

「ついて来給え」