ら見ても、或いは刑事ではないかと思われるのだつた。
「では、逃げた後だつたんだね」
「えゝ」
「機敏な奴だな」
そう云つて彼は懷中電燈で死体の附近を照らしていたが、やがて電燈の丸い白い輪はピタリと一ヵ所に停止した。そこには鈍く光つた小形の自動拳銃が転がつていた。
「ふむ。兇器を捨てゝ行つたな」小男は一向興味のないように呟いた。
蓑島はいくらか落着いて来たので、漸くこの小男を観察する事が出来た。
彼の身長は簑島自身が五尺四寸あるのから目測して、せい〴〵五尺一寸止りと思われた。洋服を着ていたが、ネクタイは垢に汚れて捻けており、上衣はダブ〳〵で襟はひどくよじれていた。彼の顔はひどく大きかつた。普通の人よりは確かに一廻り大きく見えた。普通の人よりも小さい身体に普通よりも大きい顔がついている事は、何となくグロテスクなものであるが、更に一層彼をグロテスクにしたのは、顔色が磨きをかけた赤銅のように赤黒くキラ〳〵光つている上に、殆ど顔全体を占領しているかと思われる程、巨大なそうして尖の曲つた所調鷲鼻と云う形の鼻が、ギロリとした眼の下に超然として降起している事だつた。その全体の姿は西洋の童話に出て来る妖婆を想い出させるのだつた。
「君、行こうや」
彼は退屈したと云う風に、茫然としている簑島を促が〔ママ〕した。
「えゝッ、これを拋つとくんですか」簑島は吃驚した。
「あゝ、格別面白い事はなさそうだからね」
実際彼には映画を見た後ほどの感激もなさそうだつた。
「殺すには殺すだけの理由があつたろうし、殺されるには殺されるだけの理由があつたんだろうから、俺達の関係した事じやないよ。こうして置けば警官がちやんと始末をして、必要があれば、犯人を見つけて呉れるよ」
「でも」簑島はもじ〳〵しながら、
「この人は手当をすれば、生き返らないでしようか」
「駄目だ。到底駄目だよ」
「然し、たつた今、恰度私がこゝへ来た時に、この人は譫言のように口を利いていました」