Page:Iki-no-Kozo.djvu/82

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想性は、一元的平󠄃衡の破却に抑制と節󠄄度とを加へて、放縱なる二元性の措定を妨止する。『白楊の枝の上で體をゆすぶる』セイレネスの妖態や『サチロス仲間に氣に入る』バツクス祭尼の狂態、卽ち腰部を左右に振つて現實の露骨のうちに演ずる西洋流の媚態は、「いき」とは極めて緣遠󠄃い。「いき」は異性への方向をほのかに暗󠄃示するものである。姿󠄄勢の相稱性が打破せらるる場合に、中央の垂直線が、曲線への推移に於て、非現實的理想主義を自覺することが、「いき」の表現としては重要󠄃なことである。

 なほ、全󠄃身に關して「いき」の表現と見られるのはうすものを身に纏ふことである。『明石からほのぼのとすく緋縮緬』といふ句があるが、明石縮を着た女の緋の襦袢が透󠄃いて見えることを