Page:Iki-no-Kozo.djvu/63

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るのは烏に對して自己を保護するのである。栗が澁い內皮をもつてゐるのは昆蟲類に對する防禦である。人間も澁紙で物を包んで水の浸入に備へたり、澁面をして他人との交涉を避けたりする。甘味はその反對に積極的對他性を表はしてゐる。甘へる者と甘へられる者との間には常に積極的な通路が開けてゐる。また、人に取入らうとする者は甘言を提供し、下心ある者は進んで甘茶を飮ませようとする。

 對他性上の區別である澁味と甘味とは、それ自身には何等一定の價値判斷を擔つてゐない。價値的意味はその場合その場合の背景によつて生じて來るのである。『しぶかはにまあだいそれた江戶のみづ』の澁皮は反價値的のものである。それに反して、