Page:Iki-no-Kozo.djvu/62

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玄人から見れば素人は不粹である。自分に近接してゐる「町風」は「いき」として許されるが、自分から疎隔してゐる「屋敷風」は不意氣である。うぶな戀も野暮である。不器量な女の厚化粧も野暮である。『不粹なこなさんぢや有るまいし、色里の諸わけをば知らぬ野暮でもあるまいし』といふ場合にも、異性的特殊性の公共圈內に於ける價値判斷の結果として、不粹と野暮とによつて反價値性が示されてゐる。

 (四) 澁味甘味は對他性から見た區別で、且つまた、それ自身には何等の價値判斷を含んでゐない。卽ち、對他性が積極的であるか、消極的であるかの區別が言表されてゐるだけである。澁味は消極的對他性を意味してゐる。柿が肉の中に澁味を藏す