Page:Iki-no-Kozo.djvu/139

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かしやんせ』の所󠄃も同樣の形をもつてゐる。卽󠄁ち、『ウメミ。ガヘリノ。フネノウタ。シノブナラ。シノブナラ。ヤミノ。ヨハオカシヤンセ』と七節󠄄に分󠄃けて考へることが出來る。さうしてこの場合に、かやうな樂曲が「いき」の表現であり得る可能性は、一方に各節󠄄の起󠄃首の高音󠄃が先行の低音󠄃に對して顯著󠄄な色つぽい二元性を示してゐることと、他方に各節󠄄とも下向的進󠄃行によつて漸消󠄃狀態のさびしさをもつてゐることとに懸つてゐる。また起󠄃首の示す二元性と、全節󠄄の下向的進󠄃行との關係は、恰かも「いき」な模樣に於ける、縞柄と、くすんだ色彩󠄃との關係の如きものである。

 かくの如くして、意識󠄂現象としての「いき」の客觀的表現の藝