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このような行動は、衝突を避け調和を好む、日本人の特性に根差しています。私たちがインタビューした8人の編集者のうち5人が、論争に関わることなく記事に貢献したい人たちにとってIP編集は必要なオプションだと述べています。あるIP編集者は、こう言っています。「ウィキペディアでの論争を見ると嫌悪感しかわかない。(人目にさらされる場所で)こんなことはすべきではない。」

日本で匿名性がどれほど好まれているかの顕著な例として、TwitterとFacebookの比較があげられるでしょう。Fujiko Suda[訳注:ウィキメディア財団からの委嘱を受けて今回実施した調査の責任者。本報告書の著者の一人。] は日本のTwitterとFacebookの研究プロジェクトに多く参加してきました。これらの研究では、日本におけるTwitterの人気は他国に比べると、ずば抜けて高いことが示されています。2021年のTwitterのユーザー数は5千8百万人ですが、Facebookは2千2百4十万人であまり広く使われていはいません。 Facebookはユーザーに対して、自分の身元を公開するよう求めていますが、一方Twitterは匿名で使えます。Twitterのユーザーは、本名のような自分の個人情報を公開する必要がありません。日本のユーザーは、オフラインで生じるような結果を心配することなく自由にコミュニケーションのできる安全なスペースとして、Twitterはより快適に使えると考えています。それとは対照的に、Facebookは個人情報をあまりにも多く公開しなければならず、コミュニケーションをとるには窮屈だと見ています。

日本語版ウィキペディアのコミュニティの力学

  • 経験を積んだ編集者たちは、日本語版ウィキペディアのコミュニティは敵対的であると考えている。
  • ある記事の内容について複数のログインユーザー間で合意が成立しないと衝突が起こりがちである。
  • 衝突は、ログインユーザーとIP編集者との間では生じない。これは、IP編集の特性によるものである。ログインユーザーはIP編集者とは直接コミュニケーションをとることが出来ないからである。
  • コミュニティー内ではしばしば党派が形成される。また、その党派の目標を実現しようと操作が行われる。
  • 多くの編集者が対立に巻き込まれることを避けようとしてIP編集に走る。
  • ログインユーザーはIP編集者の言うことを信用していない。

経験を積んだログインユーザーたちは、日本語版ウィキペディアのコミュニティーは敵対的であると見ています。[訳注:ユーザー間の]衝突は、ログインユーザーとIP編集者との間では生じません。これは、ログインユーザーがIP編集者と直接コミュニケートすることができないからです。そのため、彼らの関係は片務的になってしまうので、ログインユーザーはフラストレーションがたまる一方なのに対して、IP編集者はお構いなしのままです。

コミュニティー内の敵対性に関しては、主にログインユーザー間で生じる衝突に起因しています。記事の内容について複数の編集者間で合意が形成されない場合、論争に発展する傾向があります。