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額に水をかくるなり。此語の意は、Dsの父、Dsの子、又其兩間の大切の名に依て、我汝を洗と云義なり。其時ゼズキリシトのクルスより流し玉ふ御血の功德、此水に籠りて、卽一切の罪穢を洗除して、其後自己の犯なくて、死せば上天の得果疑ひなし。又善人と云ふとも、此バウチズモの授を受ずしては扶かることなし。

破して云く、マダメントとて、十箇條の法度を說く。此十條の初條を除ては、殺生、偸盜、邪婬、妄語、飮酒等すべからずと云ふ五戒を出ず。マダメントの第九第十は、心の濫望を制したる者也。不飮酒の一戒も、万事心の亂を制せん爲なり。酒を呑、湯をのむも、呑に隔はなしといへども、酒は亂に及ぶ物なれば、戀慕貪欲等の邪望〈他ノ一本望ヲ欲ニ作ル〉も、醉へれ〈他ノ一本レノ字ナシ〉ば起るが故にこれを戒む。不飮酒の一戒は心をば〈一本バノ濁點ナシ〉うらさじが爲なり。さて孝行すべしと說く。是は天下の道〈他ノ一本道ヲ通ニ作ル〉法なれば、汝提宇子、かたばかりに云ふと見へたり。此段猶後に聞ゆべし。初條にDsの內證に背くことならば、君父の命にも隨はざれ、身命をも輕んぜよとの一條は、國家を傾け奪ひ、佛法王法を泯絕せんとの心、玆に籠れるものなり。何ぞ早く此徒に炳誡を加へざらん。總じて至善の敎戒は、民生日用彛倫之外に求ることを待ず。人倫は其品繁多なりといへども五典に過ず。君臣父子夫婦〈一本夫婦ノ下兄弟ノ二字アリ〉朋友の其職分をつくさば、又何をか加へん。又これを亂す者は、惡逆無道にして、犯さずと云ことなし。君臣の職分には忠賞あり、父子の職分