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たり。上天得菓〈一本菓ヲ果ニ作ル〉、地獄墮在の一大事の因緣とするに、あまぼしは不足なり。五戒十戒、律家の諸戒の內にもあまぼしを戒められたりとは聞ず。古蜂屋入道このマサンの談議を聞て、提宇子のあまぼし談議と名付たりしは尤なり。さて又諸神諸佛、惡魔降伏の義を顯さんとては、解脫同相の衣を、弓矢劔對の形に替て見せ玉ひ、擁護の御手をのべ玉ふとこそきけ、何ぞやDs、惡魔ルシベルを造り置さへあるに、アダン、ヱワを誑す時、加護をばなさずして科に落よかし、見て笑はんやうにして、あまぼしを食へば、忽ちハライゾテレアルよりも追出し、アダン、ヱワは云に不及、一切の人間を地獄に入んとは、Dsに似合たる存分か、將た理の聞へたること歟。畢竟Dsはアダン破戒すべきことを知らざる歟。知らずんば三世了達の智にあらず、知りたらば慈悲の上より科に落ぬ〈一本ヌヲスニ作ル〉了簡を、アダン、ヱワに敎へらるべき義なり。兎にも角にも提宇子の說、作りごとなる故に、不都合なること計なり。

   五 段

提宇子の云、件のアダン、ヱワ犯科の後、死苦病苦を先とし、不如意不足なるを見、特には死して後インヘルノに堕在せらるべき難義を顧み、コンチリサンとて後悔を起し、今生の儀はさもあらばあれ、其身を初め、科を悔ひ悲まん者共の後生をば扶け玉へと、行住座臥、天に仰ぎ地に伏して是を禱られけるに、Dsデウス大慈大悲の上より扶け玉はんと思召すに、又憲法の上より、所當の科送らせ