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と。

主馬盛國しゆめのもりくにといふ者あり。馳せて重盛に吿ぐ。重盛、大に驚き、急に駕を命じて之に赴き、第門に入る。族人皆甲をつらぬき、馬にくらし、旗幟きし列を成し、將に起たんとす。重盛、烏帽ゑぼし直衣なほしにて入る。宗盛其袖をたゝきて曰く、「公は何を以て甲をかうむらざる」と。重盛睨して曰く、「汝等何を以て甲を被る。敵人いづくに在りや。吾れ大臣大將たり。寇賊闕を犯すこと有るに非ざるよりは、則甲を被る可らざるなり」と。淸盛之を望み見て、にはかに起ちて黑衣こくえを表して出づ。しばえりを正うすれども、襟せまくして甲あらはる。重盛に謂て曰く、「吾れ西光の狀を察するに、成親等の如きは乃其枝葉のみ。まゝ群小彙進ゐしんして、覬覦きゆすること已まず。而してぎよするに輕躁の君【輕躁の君】後白河法皇を以てす。何ぞ至らざる所あらんや。我れ且、一邊に幸せんことを請ひて、以て事の定るを待たんと欲す」と。語未だ畢らざるに、重盛なんだ數行下る。之を久しくして言て曰く、重盛諫旨「重盛、尊貌を熟視するに、吾が家門すで衰運すゐうんに屬するを知れり。重盛これを聞く、世に四恩【四恩】天地、國主、父母、衆生の恩あり皇恩を最とす。抑我門は桓武葛原かつらはらの胤をかたじけなくすと雖も、而れども降りて人臣と爲り、中ごろ微にしてあらはれず。平將軍の功を以てすら、國守となるに過ぎず。刑部卿、內昇殿ないしようでんを聽されし時、萬人反唇はんしんせり。大人に