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む。朝臣擧りて平氏をねたむ。藤原成親なりちか、權大納言を以て法皇の執事となる。重盛、其妹を娶りて子の維盛を生む。又其女を娶りて子の婦とす。成親の子成經なりつね、敎盛のむすめを娶る。然して成親、殊に大將と爲るをこひねがふ。しかれども得ず。居常憤々ふんたり。成親即平氏を討たんとす遂に平氏をほろぼさんことを圖る。乃西光さいくわうともに謀り、行綱藏人くらんど行綱ゆきつなを饗し、ひそかに之に語りて曰く、「平氏の專恣なること、の目する所なり。吾れ院勅を受けて、ひそかに之を圖る。而して未だ將率しやうすゐを得ず。子は源氏のちうなり。なんぞ我將と爲りて、殊功を成し、顯位を取らざる」と。行綱之を諾す。成親遂に撿非違使けびゐし康賴やすより式部大輔しきぶのたいふ藤原章綱あきつなさきの近江守源成まさ等に結ぶ。又法勝寺の執行しゆぎやう俊寬しゆんくわんに結ばんと欲し、しば之に酒をのましめ、姬人をして侍せしめ、因りて間に乘じて之にく。鹿谷の會合鹿谷しゝがたにの別舘に會して事を計るや、宴たけなはにして馬いつす。坐者驚き起ち、あやまちて瓶子へいしたふす。成親曰く、「平氏仆る」と。西光曰く、「なんぞ其首をけうせざる」と。康賴進みて曰く、「首を梟するは、撿非違使の任なり」と。瓶を取りて之を柱上に懸く。一坐大に笑ふ。成親因りて策を建てゝ曰く、「祇園ぎをんの祭日、京市雜沓ざつたふすべし。此時に乘じて火を平氏の第にはなちて、く之を攻めば、以て逞しくすべし」と。乃行綱に布五十匹をおくり、諸將の向ふ所を部署す。未だ發せず。