く、「宮人なり」と。門者、車中に燭して曰く、「可なり」と。旣に出づ。重盛、騎三百を以て途に迎へ謁し、天皇六波羅へ行幸奉じて六波羅に入る。百官萃る。關白藤原基實も亦至る。衆、其妻は信賴の妹なるを以て之を疑ふ。或人淸盛に吿げて曰く、「關白至る」と。淸盛曰く、「此れ大臣なり、假令來らざるも、吾固より將に召さんとす」と。衆、心乃安ず。已にして上皇、又仁和寺に逃る。しかれども信賴等は乃大內に據れり。
淸盛討賊帝、淸盛を召し、命じて賊を討たしむ。且之を戒めて曰く、「宜しく
佯りて退き走り、賊を
誘ひて宮を出すべし。
宮闕をして
兵燹に
罹らしむる莫れ」と。淸盛對へて曰く、「臣逆賊を誅すること、之を
掌に指さすが如し。以て天心を勞する勿れ。後命の
若きに至りては、臣甚だ惑ふ。然りと雖も敢て心を
盡さずんばあらず」と。乃兵三千騎を
勒して、重盛、敎盛、賴盛をして之に將たらしめ、兵を分ちて大內に赴かしむ。賊は
承明、
建禮の二門を開き、
陽明、
待賢、
郁芳の三門を
關し、白旗二十
餘流を
樹て、之を守る。我が兵望み見て色動く。
重盛重盛兵を
勵して曰く、「年は平治なり。地は平安なり、而して我は平氏なり。天、吉兆を示す。勝を獲ること必せり。汝が輩
努力せよ」と。乃其兵を分ちて二となし、一を大宮
巷に留め、其一