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らば、すなはち之を二氏に命ず。二氏各其隷屬れいぞくを發して之におもむくこと、物をふくろに探るが如し。復しやうを選み兵を徵することをわづらはさず。而して討伐たうばつ剿誅さうちう、立どころに辨ぜざるはなし。廟堂の上は務めて恬熈てんきを取り、其勢の積重してかへらざるを患へず。まさまさきて爪牙と爲して、以て相傾排けいはいするのみ。鳥羽の此令を下せるは、其弊を察せられしものの如くにして、弊の由る所を窮められず。之を救ふの術に於ては、盖しすでに疎なりき。

源平相箝制す是の時に當りて、源氏命をふせぐものあれば、平氏に勅して之を討たしめ、平氏制し難きものあれば源氏をして之をちうせしむ。更々相箝制かんせいして、以て控馭こうぎよの術を得たりとして、異日搏噬はくぜい攘奪じやうだつの禍、又此に基せしを知らず。古制を敗壞して一時に苟婾こうゆし、皆以て自ら困蹶こんけつを取るに足れり。

兵糧抑、戎事じふじは民命のかゝる所にして、兵食の權は一日も國につ可らず。先王の必之をみづからしたまふは其旨深し。今之を一二の宗族さうぞくに委ね、又其事を賤みて省みず。其品類を別ちて、之を朝廷の上によはひせざるに至る。甚しきは、則之を奴僕視ぬぼくしして曰く、「これ武門のみ、これ武士のみ」と。其功を論じ賞を行ふに及びては、或はをしみて與へず。嗚呼幾何いくばくぞや。其相ひきゐて以て自ら法度はつとの外に棄てざら