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ふ。武則たけのり、曰く、「我れ客兵かくへいにして、糧とぼし。利速に戰ふに在り。彼れながら之をくるしめんとせずして來り戰ふは、是れ自、首を授くるなり」と。賴義大に喜び、長蛇陣長蛇陣ちやうだのぢんを爲し、むかへ戰ふこと半日、大に之を破る。走るを追ひて、磐井河いはゐかはに至りて曰く、「吾れじようじじて遂に其巢穴をかんと欲す」と。武則をして八百騎を以て、夜之を追はしむ。武則更に死士五十をえらび、間道より貞任の營を焚き、內外より合擊がふげきす。虜の軍大に亂れ、走りて衣川險衣川ころもがはの險を保つ。賴義、義家、進みて之を攻む。河水まさに漲る。武則等、戰利あらず。河岸かがん樹有りて水をおほふを見、武則、矯捷けうせふの者をして樹をぢて河をえ、火を虜の營にはなたしむ。貞任おどろき走る。賴義追擊して、しきりに二柵【二柵】大麻生野、瀨原鳥海の柵を破り、進みて鳥海とのみの柵を拔く。乃、將士を會して飮み、武則に謂て曰く、「吾れ此に至るを得しは、子の力なり。子吾が面目を奚若いかん」と。對へて曰く、「臣、將軍の爲にむちを執る。何の力か之れ有らん。將軍、忠を天子に盡し、野に暴露ばくろする十餘年、頭髪とうはつみなしろし。天地爲に動き、將士爲に奮ふ。虜を破る河を決するが如し。今將軍を視るに、かみまた半黑なり。し貞任を獲ば、全黑ぜんこくとならん」と。賴義喜び、又進みて三柵【三柵】黒澤尻鶴脛、比與登利、出羽を破り、貞任を追ひて、厨川くりやがは【厨川】出羽厨川柵の柵に至る。柵、水澤すゐたくに據り、るゐたかくし、せんふかくし、塹中に刄を