Page:Hōbun Nihon Gaishi.pdf/1604

提供:Wikisource
このページは校正済みです

天下の事未だ知る可らざるなり。

昔者︀むかし曹操さうさう劉玄德りうげんとくに謂ふ、「天下の英雄は、唯君と我とのみ。袁本初ゑんほんしよの輩は論ず るに足らず」と。今太閤を以て柴田勝家等を視︀くらぶるは猶操の本初に於けるが如 し。而して其公を憚かりしこと、啻に玄德のみならず。宜なり、其辭を卑くして 禮を厚くし、百方和を講ぜしは。是れ太閤の至計、以て速に天下を取りし所にし て、天下の權は巳に德川氏に在り何ぞや我れ戰勝ちて、彼れ和を求む。求む る者︀は彼に在り許す者︀は我に在り我れ和せんと欲せば則和し戰はんと欲せ ば則戰ふ禍︀福︀一に決を我に取る安危禍︀福︀一に决を我に取る我れ已に天下の權を有たざらんや。 唯夫れ權我に在り。是を以て班爵の崇、封土の隆、之を天下侯伯の右に置かざる を得ず。太閤の末路、兵を外に連ね、士を內に亂る。而して之を能く定むること 莫し。能く之を定めし者︀は公のみ。太閤一たび瞑して、天下を制馭する者︀は公に 非ずして誰ぞ。是れ其勢智者︀を待ちて而して後知るにあらず特に未だ釁有らざ るのみ

關原の事は、是れ群雄相聚り、天下を推して德川氏に貽る天下を推して德川氏におくる者︀なり。何となれば、 則彼れ自釁を開きて、我をして之に乘ぜしめたるなり。我れ天下に辭あり。天下