當に譜第と同じくすべし。若し心に厭かずば、其れ各國に之け。暇を給すること
三歲。熟思して去就を決せよ」と。諸︀侯、みな送巡して曰く、「敢て命を聽かざら
んや」と。公乃起つ。入りて內廳に坐し、次を以て諸︀侯を延き、佩刀を賜ふ。公
便服にて盤坐し、腰に佩ぶる所なし。諸︀侯、刀を受けて拜す。公曰く、「刀を檢せ
よ」と。諸︀侯悚息し、刀を抽くこと寸許。輙退く。德川氏權勢定まる是より徳川氏の權勢益定
る。然れども其皇室に事へて恭順なること故の如し。其再入朝するとき、朝廷、
以て太政大臣と爲さんと欲す。公、固辭して曰く、「先臣甞て此職を叨にす。幸に
首領を全くして沒することを得たり。臣敢て復せんや」と。公甚だ祖︀先を敬す。
諸︀老臣、燕に侍して、間、言、東照公の事に及ぶ。公輙曰く、「少く之を竢て」と
乃衣帶を改め盥漱し、然る後之を聽く。善く臣下の是非を摘察して輕しく之を口
に發せず。黜陟の議あるに遇へば、輒曰く、「某の貌此の如く、性此の如し」と
其知る所、諸︀老に過ぐ。久世廣宣の三子久世廣之廣之、側衆となりて、權寵あり。公、
日、卒に之に問ひて曰く、「汝、今朝諸︀侯の贈︀遺を得しか」と。廣之拜して對へて
曰く、「然り」と。贈︀者︀の性名及び其物件を問ふ。廣之條對す。公曰く、「未だ盡さ
ゞるなり」と。廣之、簿記を懷より取りて之を撿するに果して然り。因りて惶汗