事を處するには必百世の後を規る。其朝廷に事ふる恭順殊に至る。王國を鎭護す
るを以て己が任と爲し、自儉約を執り、敢て驕侈せず。最稼穡の事を重ず。至り
て微細と雖、暗知せざるは無し。屢遊畋に託して、疾苦を問ふ。其政を爲すに務
めて士氣を養ひ、言路を開き、巧侫浮華の習を防ぐ。公、幼にして尾張に質た
り。百舌を獻ずる者︀あり。百舌島を退く郤けて受けず。左右故を問ふ。公曰く、「吾れ聞く、主
將は小慧なる者︀を取らず」と。其岡崎に在るとき、禁を犯す者︀二人あり。其一は
囿に戈す。【囿に戈す】鳥網其一は濠に網す。皆拘繫せらる。鈴木某牙兵鈴木某、之を諫めんと欲すれど
も、未だ路あらず。乃故に自令を矯め、池禦の鯉を取りて、煑て之を食ふ。他
日、公、池を觀て、守者︀に問ふ。守者︀、故を吿ぐ。公大に怒り、手づから鈴木を
斬らんと欲す。鈴木入りて、目を張りて罵りて曰く、「噫、暗主、禽魚を以て人に
易ふ。惡ぞ天下を爲むるを得んや」と。公大に悟り、刀を抛ちて入る。遂に前の
二人を釋し、鈴木を召して之を褒む。後、人に語りて曰く、「直言の功は一番槍に
愈る。敵を犯す者︀は、賞、倖す可し。君を犯す者︀は、罰、測る可からざるなり」
と。公、濱松に在るとき、三士人三士人を召して事を命ず。其一人留りて請て白く、「臣
間を承けて、敢て白すことあり」と。一疏を懷より出してこれを献ず。公、其疏