ちて之を走らす。
時に兩軍、酣戰して、埃塵、大に起る。彼此紛拏して辨ず可らず。阿部正次阿部正次、以爲
へらく、「東兵暑︀を冐して遠く來る。面目みな黑し。城兵は則否らず」と。乃令
して曰く、「面の白き者︀は敵兵なり」と。因りて物色して數十級を斬る。諸︀隊、相
傳へて之に傚ふ。斬獲算なし。秀賴、親出でんと欲し、城中、反者︀ありと聞きて
果さず。又前將軍、數人を遺して和を議するを以て、大野治長等を召還す。治長
等走り還る。城兵敗走敵軍みな後を顧る。我が軍乃之に乘じ、遂に大に之を敗る。首を斬
ること一萬五千級なり。
前將軍は進みて茶臼山に上り、將軍は進みて岡山に上る。少將忠直は進みて川塲
に至り、火を市舍に縱つ。城中に內應を爲す者︀あり。忠直の兵、乃高麗橋より京口
門を破りて入り、幟を城上に植つ。忠直先登是を先登の第一と爲す。
吉田修理、天滿より轉じて濟り、溺れて死す。水野勝成、忠直に繼ざて入る。忠
直、兵を分ちて、諸︀樓櫓を焚き、終に天主閣に及ぶ。烟焔天を衝く。諸︀軍齊しく
呼びて、皆門を破りて入る。秀賴、火を觀月樓に避く。淀君、及び夫人徳川氏以
下、みな之に從ふ。池田利隆、尼崎を發し、路にて其烟を望み、乃馳せて神︀崎を