望見し、或は以て曉霧と爲す。日出づるに及びて之を視︀れば、則皆軍隊なり。乃
大に駭き、馳せ還りて急を吉ぐ。乃命を諸︀將に傳ふ。城兵の部署︀眞田幸村は茶臼山に陣して
我が左に當り、大野治房は岡山に陣して、我が右に當り、森勝永、竹田永應、大
野治長、及び七隊長は其間に陣す。明石守重等は別軍を以て、今宮に出づ。而し
て秀賴、親將として之に繼ぐ。鎧仗旌旗、皆極めて嚴整なり。城兵、銳を悉して
出づ。其將帥、人人必兩將軍に當らんと欲す。將軍の候騎來る。左軍に白して曰
く、「大兵出づ。請ふ速に斾を進めよ」と。前將軍叱して曰く、「敵、城を空しくし
で出づるも、七萬に過ぎじ。何ぞ大兵と謂はんや」と。住吉に及びて、家康輿を捨てゝ往く乃輿を舍
てゝ鞵を穿つ。左右、鎧を進む。之を斥けて曰く、「奴輩を誅するに、何ぞ鎧を以
ゐることを爲さん」と。紵衣黃掛にして馬に上る。其騎と前軍の輜重と、相亂れ
て禁ず可らず。顧て橫田尹松に命ず。尹松進み呼びて曰く、「騎は左し、重は右せ
よ」と。道闕けて行く。人をして返り馳せて義直、賴宣に吿げしめて曰く、「速に
來れ。戰將に作らんとす」と已にして右軍傳呼す、「將軍至れり」と。長政、嘉明長政、嘉
明、出でゝ道傍に謁︀す。將軍、甲して冑せず。單騎二十餘卒を從へて師を巡る。
二人を見て、馬を立てゝ之に揖す。二人進みて其銜を執りて曰く、「疇昔は敵遠く