先鋒塙直次、岡部則綱、谷輪重政等、先を爭ひて進む。高綱、銃手を以て要擊し
則綱を傷く。紀伊の將上田重安、直次と槍を接し、傷きて交退く。多胡某、射て
直次を斃し、遂に則綱、重政を獲たり。治房、貝塚︀に在り。敗を聞きて走る。而
して紀伊の土寇、亦平ぐ。但馬守、復進む。勝成、其部下を分ちて二隊と爲し、
堀直寄、松倉重正を以て、左右の隊將と爲す。重正、吿げずして進む。直寄怒り
居民を召して㨗路を問ふ。對へて曰く、龜背嶺「龜背嶺最㨗し。然れども昔物部守屋、此
路に由りて敗を取りたり。武人相傳へて凶と爲すなり」と。直寄曰く、「吾れ旣に
軍に從ふ。凶は其分なり。且守屋以て敗る。安ぞ吾れ以て勝たざるを知らんや」
と。遂に嶺を踰え、重正に先だちて國分嶺に至る。已にして勝成、諸︀軍を引きて
踵ぎ至る。少將忠輝、猶南都︀に陣す。
兩將軍、四方の兵漸集るを以て、遂に親出でんと議す。會大阪の細作、京師に入
り、禁內及び二條を焚かんと欲す。板倉勝重、捕へて獄に下す。前將軍、故を以
て行を停め、五月五日、前將軍發す乃發す。諸︀軍に令して、三日の糧食を持たしめ、米鹽酒
漿一櫃を以て自ら從はしめ、肩與に駕して行く。將軍發す將軍、伏見を發す。上杉景勝、
京師を留守し、男山に陣す。前田利光、少將忠直以下、皆從ふ。即日、前將軍は