阪の兵來る」と。負擔して四走し、或は闕門及び公卿の宅に入る。板倉氏の僚屬
兵備を爲さんと請ふ。勝重便服勝重曰く、「之を置け」と。乃便服して逃行し、平日に異な
らず。上下倚安す。而して諸︀將至る。直孝は東寺に陣し、高虎は淀に陣す。去歲
の役に山口重政山口重政、功を以て自ら償はんと欲し、箱根に至りて出づるを得ず。是に
於て、間行して井伊氏に屬す。渡邊了藤堂氏の將渡部了、敵を住吉に縱つ。髙虎自疑は
るゝを恐れ、甚了を誚む。舊臣も亦、了の新に進みて人に傲るを忿る。了、去ら
んと請ふ。許さず。
四月九日、前將軍、尾張に至り、大阪の使者︀を召して曰く、「吾れ聞く、『右府復兵
を募る』と。兵多ければ則食乏し。固より其當のみ。吾れ將に往きて其虛實を驗
せんとするなり」と。因りて使者︀を留めて遣らず。常光氏を遣して、再び兵を弭
めんことを諭さしむ。居ること三日にして、義直の婚を成し、又三日にして、尾
張を發し、十八日、京師に至る。常光氏、來りて秀賴の命を聽かざるを報ぐ。又
後藤光次をして往かしむ。亦答へず。乃畿內、大阪の募に應ずる者︀を徇へ、其妻
子を收め、降る者︀は之を宥す。
將軍、前將軍の尾張に至る日を以て、將軍江戶を發す江戶を發す。少將忠輝、黑田長政、加藤嘉明