鄕はば、則恐らくは力を費やさん。汝.勗めて之を沮め」と。景憲諾して往く。
城中の諸︀將、師を出さんと議する者︀あり。治房兄弟、固執して聽かず。景憲の說
を信ずるなり。人、治房に說きて曰く、「景憲は諜賊なり。請ふ、之を驗問せよ」
と。治房驚き、甲を發して其舍を圍む。景憲笑語自如たり。治房、之を召す。即
一奴を從へて入る。治房曰く、「人言果して聽く可からざるなり」と。乃之を界浦
に置き、時來り見えしむ。
兩將軍、已に敵情を熟知す。而れども秀賴未だ之を知らず。三月、靑木一重、及
び二女使をして來り請はしめて曰く、「兵荒の後、食祿給せす。請ふ、之を賑貸せ
よ」と。時に參議義直、將に故淺野左京大夫の女を娶らんとす。前將軍、二女使
に謂て曰く、「右兵衞督、婚を成すこと近きに在り。吾れ亦將に往かんとす。東國
の女子、禮節︀に嫺はず。汝等幸に往きて之を相けよ。婚畢らば則吾れ自京師に適
きて、賑給の事を計らん」と。乃之を尾張に遣る。已にして京師の報至る。曰く
大阪兵を聚む十四五萬人「募兵大阪に聚る者︀十四五萬。兵勢前役に什倍す」と。前將軍笑ひて曰く、「多多益
敗るべし。必之を禁ぜざれ」と。終に令を諸︀侯に下す。皆前役の如し。先井伊直
孝、藤堂高虎に命じて、兵を率ゐ往きて京師を護らしむ。京師方に訛言あり、「大