濠の上に建つ。而して城將眞田幸村、善く拒ぐ。我が兵死傷頗る多し。前將軍烟
を望み、怒りて曰く、「奴輩、敢て我が令を破る」と。安藤直次安藤直次を願て、往きて之
を收めしむ。將軍、令を破る者︀を罰せんと請ふ。前將軍曰く、「令を破る者︀も亦、
得可からざるなり」と。兩公屢諸︀營を巡視︀す。前將軍、未だ甞て甲を衷せず。葵號
の戰袍を被て馬に上り、十餘騎を從へて生玉口に至る。城兵望み覩て之を識
り、銃を叢めて雨注す。衆爭ひて之を避けんと請ふ。前將軍顧ず。轡を按めて
徐行す。横田尹松橫田尹松、後れて至り、衆を排して進みて曰く、「此公、矢石に當るを喜
ぶ。矢石の來る、川塲より甚しきは莫し。請ふ、往かん」と。乃馬を控へて西
し、城を去りて遠ざからしむ。他日、將軍、巡りて天滿に至り、有馬氏の堙樓に
登る。城兵狙ひて大熕を發す。從者︀去らんと請へども肯かず。水野勝成水野勝成曰く、「元
帥の師を巡るは、斥兵と異なり。當に專一處を視︀るべからず」と。乃肯ひて去
る。後藤基次城將後藤基次曰く、「兩帥みな天授なり。豈徼倖す可けんや」ど。衆を抳めて
妄に銃を發する勿らしむ。
六日、前將軍、徙りて茶白山茶臼山に陣し、將軍、徙りて岡山岡山に陣し、連珠砦を築きて
相接す。壅河の功旣に竣り、隍水多く涸る。城兵大に驚く。我軍土豚を以て隍を