「忠世の孫に愧ぢず」と。
花房職之是に於て、諸︀將爭ひ進む。池田忠繼、蜆川に臨みて陣す。部將花房職之、野田、
福︀島の二寨を望みて曰く、「旗を植てて烟なし。是れ已に逃れしなり」と。人をし
て之を伺はしむるに、一人をも見ず。乃濟る。中島の諸︀將、繼ぎ濟らんと欲す。
城昌茂、城昌黃之を止めて曰く、「太公、我に命じて軍を護らしめ、其持重を戒む。公等
我が言に逢ふは、乃太公の言に逢ふなり」と。諸︀將乃止む。已にして中軍、令を
傳へて諸︀將の逗留するを責む。諸︀將答ふるに昌茂を以てす。前將軍、昌茂を召し
林信勝をして孫武の傳を讀ましめ、「將の軍に任りては、君命も受けざる所ある」
に至りて、乃昌茂を願て曰く、「汝、我が命に拘り、機を見て進まざるは何ぞや」
と。因りて之を逐ふ。諸︀將に令し、進みて福︀島福︀島に入らしむ。淺野氏、兵船を以て
海︀口に至り、其聲援を爲す。阿部正之阿部正之白して曰く、「西北の諸︀砦相踵ぎて陷沒す。
川場、天滿の二寨は、脆薄にして水を背にす。必遁れん」と。其夜果して寨を焚
きて退く。城將大野治房、道頓港道頓港を守る。亦驚き走りて城に入る。蜂須賀氏の兵
追ひて其旗幕を獲たり。十二月、忠總、忠繼、淺野、鍋島、九鬼の諸︀將と、進み
て川塲に入り、利隆︀等は進みて天滿に入る。