Page:Gunshoruiju27.djvu/367

提供:Wikisource
このページは校正済みです

となどきこえたるは。すぎていぬるもくちおしう。又さやうなるおりに。うしのしりがひのあやしうかきしらぬさまなどうちかゝれたるが。おかしきこそ物ぐるをしけれ。又いとくらうやみなるに。さきにともしたる松のけぶりのかの車のうちにかゝれいりたるもおかし。月のいとあかきに小川をわたれば。うしのあゆむまゝに。すいさう水晶をくだきたるやうに水のちりたるこそおかしけれ。したすだれをたかやかにをしはさみたれば。くるまのながえはいとつやゝかに見えて。月のかげのうつりたるなどいとおかし。ゆきつくまでかくてあれかしとおぼゆ。五日のさうぶの秋冬まであるが。いみじうしらみかれてあやしきを。ひけとりあけたるそのおりのかのおなじやうにかゝれたるいみじうおかし。よくたきしめたるたきものゝ。昨日おとゝひけふなどは。うちわすれたるに。きぬをひきあげたれば。けぶりののこりていとかうばしう。たゞいまのよりはめでたくこそはおぼゆれ。六月廿日ばかりにいみじうあつきに。せみの聲のみたえずなきいだして。風のけしきもなきに。いとゞこだかき木どものおほかるが。木ぐらくあをきなかよりきなる葉のやうひるがへりおちたるこそすゞろにあはれなれ。秋のつゆ思ひやられて。おなじ心にいみじうあつきひるなかに。いかなるわざをせんとあふぎの風もぬるくわびしければ。ひみづにてひたしなどあつかひて。たゞいまなにばかりなることあらんに。このあつさをわすれて。心うつす事ありなんやといふほどに。あたりにほふばかりなるうすやうを。なでしこのいみじう色こきに。むすびつけたるふみをとりいれたるこそかきつらんほどおもひやるも。心ざ