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の帝も時平の大臣の讒奏によりて北野の御事も出來たりしこと也。鎌倉の右大將の時景時が讒言によりてあまたの人の損じて侍るとかや。さてこそ後には景時もあさましき死をして侍りけめ。人のあしきことは何よりも讒臣にて侍るとかや。人ごとのならひにて。したしくうときによりてそのけぢめあることは常のことなれど。たゞ心のひくにまかせてさはとそらごとなど申つげ侍ることはあさましき也。まめやかの道理などをひが事に申なさんは。たゞ其ことばかりにてもあるまじき也。やがて國の政のたがひて。佛神の御心にもかなふまじければ。誠に心をかれ侍るべきにこそ。かやうのことやがてさイとなけれども。心得ぬればすべて其人にはばかされ侍らぬ事也。狐狸などいふものも。それと知ぬればあやまちのなきことにて侍るとぞ承りし。さて又人の世のならひ。名利思はぬ事はなし。寶物もほしく官位もねがはしく侍けイれば。それにつけてをのづから人をもついしやうなどすることは常の習也。さればとて。まさしきひがごとを道理にいひたてゝ。そのかはりに多くものをとらむは。たゞひたすらに大罪にて侍べし。盜人などと申ものは我身一にてこそあれ。よそをばそこなふことはあるべからず。かやうならん輩は忽に國をも人をも損じ侍べければ。よくその器を定らるべきにや。世の末にはまことに欲もなく名聞のなきことは有まじけれども。さすがはぢしらひたらん人は。さほどの道なき事は有まじければ。淺深厚薄につきてさたも有べきとぞ覺侍る。さて又人の恩をしらず。不義に過分なることの世の末には多く侍るにや。臣として君をかたぶけなどし子として父をあやまつ程の事は