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Page:Gunshoruiju27.djvu/185

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もてあそぶ人も。その事になれてこそものゝ善惡は覺ゆべけれ。佛と佛との境界。聖と聖との一たび目をあはせ。盖をかたぶけて。胸のうちのしらるゝことはまことにあるまじき事也。たゞよのつねの人のよしあしは。世にかくれなきものにや。二の目の見る所。十のゆびのさす所。なじかかくれはて侍るべき。孟子といふ人の申たるは。左右の人のよきと申とも又あしきと申とももちひべからず。たゞ天下の人のおなじ口にいふをもちひべしとかや侍るなる。げにも物のよしあしはさすが名譽による事也。世の末にはあしき事もよくなり。よきこともあしぐなることもあれども。物の上手人の稽古などはかくれぬ物ぞかし。唐國の文にも我國の日記にも讒言といふことをあさましき事に申侍る也。白を黑く黑を白く申なし侍る。蠅といふ虫の塗物などにはしろくはこをしかけ。白きものにはくろくはこをしかけ侍るにたとへたるにや。唐國にもさしもめでたかりし成王と申御門だにも。周公旦とていみじき聖人のめでたく國をおさめ侍しを。あしき弟の二人ありて讒奏せられしに。御門まことに思食てしりぞけられき。其時雨風あらく。世中さはがしくて。草木もかれしぼみ。秋の田の實も損ぜしうへ。周公旦成王の父の武王の命にかはらんといふ願書を物の中より求出されて。是ほどに忠ある人なりけりとて。やがてめしかへされて。讒奏したる弟二人をば誅せられてこそ世はめでたく侍しか。源氏の大將を繼母のあし后あし大臣などのそねみて須磨へながされ給ひし時。雨風やまず。世中さはがしくて。めしかへされし事は。此周公旦の例を露もたがはずかきたるこそいみじき女のさいかくと覺侍れ。又めでたきためしに申延喜醍醐