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いふ鳥の一羽に千里をかけるも。せきあんとてゆめばかりのイる鳥の一二寸を飛も。たゞそのたのしびはおなじことゝかや申せば。心ひとつをなぐさめむ事は。まことに不足なくや。ただすべて好むになき物は人にて侍るなり。わづかなる家のうちのことを申あはせんと思ふにだにもその器なし。ましてことひろく。人をも世をもたすけ侍る程の人をこのみいだして。御門にもまいらせたく覺ゆることのいまだかなはぬに。其ほかの物ごのみはものうく侍る也。中頃も匡房邦綱などいひし人々は。みな攝籙大臣の家のうちにはいやしき人なりしかども。後は天下の重寶となりき。彼邦綱大納言は武家ざまの事をもひとへに我心に任てはからひき。又廣元などいひし人は賤く數ならぬものにて有しかども。鎌倉の右大將いとをしくせられて。日本國のことをもはからひ申て。今の世に諸國に地頭などをかれたるも。此人の申されたるとぞ承侍し。かやうの人を尋出してこそ物ごのみの灌頂にてもあるべけれ。さりながら人をしる事は。から物。茶香の具足などには似べからず。何としてよしあしをもやがてわきまへしるべきと申人のありし。それはまことに大事にて侍るとかイや。さてこそ昔より人をしらせ給ふ御門をば聖主ともかしこき御代とも申。人をしらせ給はぬ御時は亂がちなることのみおほく侍也。大かた臣をみること君にしかず子を見ること父にしかずと申侍れば。なじか上として下を御らむぜぬ事は侍るべき。たゞわろしとはおぼしめせども。しりぞけらるゝ事もなく。よしとは思食ども賞せらるゝ事のなきにてこそ侍らめ。又人をこのみかしこきをもとめ給はゞ。やがて人の善惡はあらはるべきにや。唐物鳥獸など