Page:Gunshoruiju27.djvu/151

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の次に。いかなる方便を以てか天下を治る術候べきと尋申たりしかば。上人被仰云。何樣に苦痛轉倒して一身穩ならざる病者をも。良醫是をみて。これは冷より發たり。是は熱にをかされたりとも。病の發たる根源をしりて。藥を與へ灸を加れば。則其冷熟さり自病退き。身躰快がことし。かやうに國の亂て治がたきは。何に侵さるゝぞと先根源をよく知給ふべし。さもなくて。今目の前にさし當たる罪過ばかりををこなひ。忠賞ばかり沙汰し給はば。彌人の心かたましくわわくにのみ成て。耻をも不知。前を治ば後より亂。內をなだむれば外は恨つきずして。しづまり治べからず。これ妄醫寒熟を不弁して。一旦苦痛の有所を灸し。先彼が願に隨て猥に藥をあたふるがごとし。忠をつくして療すれ共。病の發たる根源を不知故に。倍病惱重て不愈がごとし。されば世の亂るゝ根源は。何より起るぞといへば。只欲を本とせり。此欲心一切に變じて。萬般の禍となる也。是天下の大病にあらずや。是を療せんと思ひ給はゞ。先此欲心をうしなひたまへ。天下をのづから勞せずして治るべしと云々。泰時申云。此條尤肝要にて候。但我身計は心の及候はん程は此旨を堅守べしといへども。人々此無欲にならずは。天下治がたし。如何して此無欲の心を人每に持する謀候べきと云々。上人答たまはく。其段はやすかるべし。只大守一人の心によるべし。古人曰。未其身正影曲。其政正國亂云々。此正といふは無欲也。又云。君子居其室。善則千里外皆應之と云々。此善といふも無欲也。只大守一人。實に無欲に成すまし給はゞ。其德にいふせられ其用に耻て。國家の万民自然に欲心うすく成べく。小欲知足ならば。天下や