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Page:Gunshoruiju18.djvu/777

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しほのやま。さしでの磯を見やりて。

 秋のよの月もさしてのいそ千鳥しほの山をやかけて鳴覽

甲府にて雪齋宗壽所望ありしに。

 雲霧に月の山こす風もかな

夢の山宗壽さしきより見えければ。

 賴む其名とはしらすや旅まくらさそひてかへる夢の山風

廿一日。諏訪の社ちかき上原といふ所にとまりて。あかつき旅たつとて。湖水に月のうつりたる影をみて。

 すはの海や秋のよわたる月影に氷のはしもみる心地して

廿二日。木曾の內福嶋といふ所に日たかくつきて所々見物せしに。よしある山寺の門に入てみれば。額に萬松山とあり。寺內に行て尋るに。住持とおぼしき僧の出られて。しか物がたり有。寺號は興禪寺となんいひける。江州黃門草津湯治の刻。南化和尙一宿。又越後直江城州やどられける時。聯句などありたるよしありて。主の句などかたられける。次にね覺の床といふ所。おもしろき景氣などいはれければ。さらばとて卽座發句をして。入韵所望せしに。

 月のみかね覺のとこのあきの月

 旅亭砧響冷 短李

この明がたに木曾のかけはしを渡りてのぼりけるに。月の河上にうつりてすさまじきに。霧わたりて。夜のさまいへばさら也。

 世中のあやうき道も雲水のなかはにいつる木そのかけはし

濃州をのぼりけるに。みののお山。信長公御代。公方御入洛の御使にたび見なれし所なれば。

 幾かヘりみののお山の一つ松ひとつしも身の爲ならなくに

鎌倉へまかりて。それよりむさしの國むつらかな澤見物に行侍しに。田邊のいそといふ所あるよしきゝて。

 名にきゝて歸る心やさそふらむおなし田邊のいその夕波

霞山。同國なれば。見やりて。